政府は2021年4月に高年齢雇用安定法を改正し、企業に努力義務として70歳までの就業機会を確保させる法律(改正高年齢雇用安定法、いわゆる70歳就業法)を定めました。このように長く働ける仕組みは変化してきているとは言え、人生は100年時代。長い老後生活への不安は尽きません。
このような状況の中、年々シニアワーカーの数は増えているのですが、働く理由は収入の確保だけではないようです。今回は増え続けるシニアワーカーの状況と、その意識の変化について解説していきます。
シニアの就業率
厚生労働省がまとめた「労働力調査」によれば、シニア(60~70歳以上)の就業率は年々増加しています。特に顕著なのは60歳から64歳のシニアで、2002年に50.6%だった就業率が2022年には73%に増加しています。
また65〜69歳のシニアは34.2%が50.8%に、70歳以上のシニアは13.9%から18.4%に増えています。70歳を超えるとさすがに就業率の延びは鈍化するものの、60歳から69歳までのシニアは年々積極的に働く意欲が増えていることがわかります。
これには人生100年時代と言われ、長くなる老後生活に不安を覚えていることや、生活を豊かにする、趣味を楽しむための資金を確保するなどの理由が考えられますが、シニアが働くのは収入のためだけではないようなのです。その理由を説明する前に、若手就業者の考え方を紹介しておきましょう。
若手就業者は長く働きたいと思っていない!?
若手就業者(20〜29歳、30〜39歳)に、「あなたは人生で何歳まで働きたいと思いますか?希望する年齢を教えて下さい」と質問したところ、20〜29歳は平均で57.6歳、30〜39歳は平均で61.7歳となりました。ここで注目すべきは数年前からの変化で、6年前に同じアンケートを実施したときの回答は、20〜29歳は平均で60.9歳、30〜39歳は平均で65.3歳。
つまり若手就業者は、6年前に比べ早くリタイアしたいと考えるようになっているのです。
これは近年、早期リタイアやFIRE(投資運用による経済的自立、早期リタイア)が話題となっており、このような生き方を実現したいという考え方の表れかもしれません。また、年齢が進むにつれ考え方に変化が現れることも考えられます。
ですが先述のように、シニア就業者は年々増加し今後も増えていくことが予想されます。若手就業者とシニア就業者の間には、なぜこのような考え方の乖離があるのでしょうか?
高齢になっても働きたい理由は収入だけではない
71歳以降も働きたい、というシニア就業者(60~69歳の就業者)とプレ・シニア就業者(55~59歳の就業者)に「高齢になっても働き続けたい理由」をたずねたところ、若手就業者との考え方の乖離を説明できるような理由が見えてきました。
シニア就業者とプレ・シニア就業者が高齢になっても働きたい理由の1位は「働くことで健康を維持したい」、2位は「生活を維持するための収入を得るため」、3位は「働かないと時間を持て余してしまう」となりました。また4位の「将来の年金生活が不安」は予想できた理由ですが、5位には「仕事を通してやりがいを得たいから」という理由が入りました。
つまり高齢者になっても働きたいという理由は、生活維持のための収入を得ることだけでなく、「健康維持」や「やりがい」が大きな理由になっているのです。このような理由であれば、考え方の乖離は若手就業者がまだ実感できることではない、つまりそのようなことを考える年齢になっていないのだと理解できます。
まとめ
健康維持のために身体を動かし、社会とつながっていたい。労働を通して人の役に立つというやりがいを得たい。シニア就業者が増えている背景には、このような就業理由が見えてきます。もちろん生活や趣味のための収入を得ることも大切なことですが、労働にはお金以上の喜びがあるのです。